かつて、インフラエンジニアの仕事といえば、物理サーバーの調達や手作業によるOS・ミドルウェアのインストール、設定ファイルの編集といった「職人技」の世界でした。
- 環境構築に時間がかかる
- 設定ミスがトラブルの原因に
- 手順が属人化し、再現性が低い
そんな課題を根本から変えたのが、IaC(Infrastructure as Code)=インフラのコード化という技術です。
「コードでインフラを管理する」という考え方は、インフラ構築における再現性、スピード、チーム連携を一変させました。
IaC(Infrastructure as Code)とは?
IaCとは、「サーバーやネットワーク、ストレージなどのインフラ環境をコードとして定義・管理する」手法のことです。通常、手作業でひとつひとつ設定しながら構築していた作業を、YAML、JSON、HCLなどのコードで記述し、ツールを使って自動的に実行します。
一言で言えば、「インフラ構成をプログラムのように扱う」ことを可能にしたものがIaCという方法です。特にクラウドとの相性がよく、IaCを使って以下のようなことが簡単にできます。
- 仮想マシンの構築
- ネットワーク構成(VPC、サブネットなど)
- OS・ミドルウェアのインストールと設定
- ロードバランサーやファイアウォール設定
- スケーリングルールや監視設定
なぜIaCは革新的なのか?
インフラの運用現場にIaCがもたらしたのは、単なる「自動化」ではありません。より本質的な価値は、以下の3点に集約されます。
再現性と信頼性の向上
人が手で作業する環境構築は、ミスや抜け漏れが起きがちです。IaCでは、一度作成したコードを何度でも同じ環境として再現できるため、構築作業の信頼性が格段に向上します。
かつては、本稼働向けのサーバやネットワーク機材が届いてから、職人が限られた期間と間違えられないプレッシャーの中で設定・構築を行っていました。それが、あらかじめコードとして作り置きしておけるようになったのです。これは驚きでした。
スピードアップと継続的デリバリー
コードを書いてCI/CDパイプラインに組み込めば、数クリックで環境構築が完了。開発から本番へのリリースも迅速に行えるため、アジャイルやDevOpsとの相性も抜群です。
コード管理によるナレッジ共有
IaCのコードはGitなどのバージョン管理システムで管理可能。「誰が・いつ・なぜ」変更したかが記録に残るため、チームでの共有やレビュー、ロールバックも容易になります。
代表的なIaCツールとその特徴
IaCと一口に言っても、用途や構成に応じて様々なツールが使われます。
- Terraform(HashiCorp製)
- マルチクラウド対応(AWS, Azure, GCP など)
- 宣言型の構成言語(HCL)
- AWS CloudFormation
- AWS専用のIaCツール
- リソース作成のテンプレートをYAML/JSONで記述
- AWS環境に最適化された管理が可能
- Ansible
- YAML形式のPlaybookで操作
- サーバー設定やアプリケーションデプロイに強い
このほか、例えばAWS CDKや、Azure Bicepを用いれば、よりアプリケーションのプログラミングに近い感覚で、コードを作成することができます。
導入のメリット:SE・インフラエンジニアにとって何が変わる?
Before(従来の構築) | After(IaC導入後) |
---|---|
手作業で構築 | コードで一括管理 |
作業記録が曖昧 | Gitで管理・共有 |
構築に時間がかかる | 数分〜数秒で完了 |
トラブルの属人化 | 再現性とドキュメント化 |
業務としては評価されにくい技 | 自動化で工数削減+価値創出 |
導入時の注意点・落とし穴
革新的とはいえ、IaC導入には慎重な検討も必要です。
- 学習コストの高さ:ツールごとの構文や運用ルールに慣れる必要がある
- 管理体制の整備:Git運用・レビュー・CI/CD連携など、コードを扱う体制が必要
- 状態管理の扱い:IaCと動いている環境との不整合に注意
この最後のIaCと環境の不整合は厄介な問題です。IaCで構築した環境は、稼働後の環境に対してもIaCからメンテナンス作業を行わないと、すぐに不整合を起こしてしまいます。IaCを用いた保守・運用設計が必要です。
まとめ:IaCは「手作業からの解放」だけでなく「戦略的運用」への進化
インフラエンジニアの仕事は、IaCの登場によって「人手を減らす作業」から、「より戦略的な環境構築・改善」へとシフトしています。
オンプレ時代を知らない技術者たちにとっては、むしろ手作業を知らず、元からIaCを使ってた、という方も少なくないかもしれません。IaCは単なる技術トレンドではなく、今後の標準スキルともいえるでしょう。
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