2025年3月、国内大手IT企業の富士通が、「新卒一括採用」を廃止することを正式に発表しました。
日本の大企業では長年続いてきた新卒一括採用制度。春に一斉に学生を採用し、同期として一斉に研修を受け、キャリアをスタートさせるというスタイルは、日本型雇用の象徴でもありました。
しかし富士通はこの制度に終止符を打ち、「通年採用・ジョブ型雇用」へと大きく舵を切ります。
新卒一括採用とは何だったのか?
新卒一括採用とは、企業が決められた時期(主に春)に、大学新卒者をまとめて採用し、一律に教育・配置するという日本独特の雇用慣習です。
この制度には次のようなメリットがありました。
- 同期としての一体感・組織文化の醸成
- 長期育成を前提とした人材確保
- 年功序列と組み合わせた安定的な人事運用
一方で、一般論として近年は採用に関して以下のような問題点も顕在化していました。
- 若者の多様なキャリア志向に対応しにくい
- 人材の定着率の低下
- グローバル採用や中途採用との不整合
- 即戦力志向の高まりとのミスマッチ
富士通が制度を廃止した理由とは?
グローバル化・ジョブ型雇用への対応
富士通は数年前からジョブ型雇用への転換を進めており、職務に応じた報酬体系や評価制度を整備してきました。
ジョブ型は、企業として必要な組織・職務を設計し、それを担う人材を雇用する考え方です。「一律に採用し、配置転換で育てる」という新卒一括採用は制度的に相性が悪くなっていました。
多様な人材の確保
通年採用に切り替えることで、より多様なバックグラウンドを持つ人材を公平に迎え入れることが可能になります。
- 海外大卒者
- 国内外の大学院生
- 第二新卒
- 再チャレンジ層
スキルベースでのマッチング強化
新卒一括採用では、「入ってから育てる」文化が主流でした。しかし今後は、ポジションごとに必要なスキルや知識を前提とした採用=即戦力志向が求められます。
柔軟なキャリアパスの提供
今の若手は「1社に一生勤める」よりも、「自分のキャリアを主体的に選びたい」という志向が強まっているそうです。こうした価値観に応えるためにも、入社時期や職務内容を柔軟に設定できる採用制度が必要となってきています。
社会情勢も後押し
今回の富士通の発表は、単なる1企業の方針転換ではなく、時代の要請に応えるものと見ることができます。
- 大学の秋入学検討(グローバルスケジュールとのズレ是正)
- 学生のインターン重視傾向
- デジタルスキル重視の採用基準
- 少子高齢化による採用競争の激化
これらの社会的変化が、「通年で、スキルベースで、柔軟に採用する」という方向性を後押ししています。
他企業にも波及するか?
富士通以外にも、すでに他の大企業でも動きは始まっています。
- ソニーグループ:通年採用と職種別採用を拡大
- 資生堂:ジョブ型雇用へ本格転換
- リクルート:新卒・中途の区分を緩やかに
とはいえ、日本全体としてすぐに新卒一括採用がなくなるわけではありません。特に中小企業や伝統的な業界では、育成型の一括採用に一定の合理性があります。
しかし、今回の富士通の決断は「一括採用が必須ではない」時代の到来を象徴しており、他社への示唆は大きいと言えるでしょう。
これからの働き方・雇用のキーワードは?
富士通の採用改革は、単なる制度変更ではなく、働き方やキャリアのあり方そのものの再構築につながっています。この時代のキーワードは以下のようなものです。
- ジョブ型雇用:仕事に対して人を採用する発想
- 通年採用:タイミングに縛られない流動的な採用
- リスキリング:個人の継続的学習と再成長
- キャリア自律:企業に委ねない自分主導の職業選択
学生や若手社会人にとっても、「就活=4年生の春に一斉にやるもの」という固定観念からの脱却が求められる時代に入っています。
まとめ:富士通が示した「人材採用の未来形」
富士通の新卒一括採用の廃止は、単にスケジュールや制度の変更にとどまらず、「人材とはどう育てるのか」「企業とはどう働く場所なのか」という本質的な問いに対するひとつの答えでもあります。
固定化された採用プロセスや雇用慣行が見直される中、企業にも個人にも「選択の自由と責任」が広がりつつあります。
今後、採用においては企業の「ビジョン」や「育成方針」が、学生にとってより重要な判断軸になるでしょう。そして、個人にも「学び続ける力」と「自分を説明する力」が求められる時代が本格化しています。
今回の富士通の一歩は、日本の雇用のあり方を大きく揺り動かす、象徴的な変化と言えるでしょう。
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