企業や行政がITシステムの刷新や新規構築を行う際、「クラウドファースト」という言葉を耳にすることが(だいぶ前からですが)増えました。
このクラウドファーストとは、「まずクラウドの活用を優先的に検討する」という考え方を指します。
従来のように自社のサーバー(オンプレミス)を前提とするのではなく、クラウドで運用可能かどうかを最初に検討し、それが難しい場合に他の選択肢を探すというIT戦略の基本姿勢です。
クラウドサービスの進化とともに、この考え方は企業や行政機関に急速に広まり、日本のIT導入のあり方にも大きな変化をもたらしています。
なぜクラウドファーストなのか?
DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
社会全体で進むデジタル化の波の中で、システムの柔軟性や拡張性、スピードが求められるようになりました。
クラウドはその要請に応える手段として最適です。クラウドファーストは、DX実現の基盤的な考え方とも言えます。
コスト構造の変化
オンプレミスでは初期からの設備投資(サーバー購入・設置・保守)が重くのしかかりますが、クラウドなら自社で設備を持たないので初期費用を抑えたうえで、使った分だけ支払う従量課金が可能となります。
このため、特にスタートアップや中小企業にとって導入ハードルが低くなりました。
災害・感染症リスクへの備え
日本は災害大国でもあり、BCP(事業継続計画)の観点でもクラウド活用が求められています。さらに新型コロナウイルスの拡大により、テレワークやクラウド活用の必要性が一気に高まりました。
日本政府が採用した「クラウド・バイ・デフォルト原則」
日本におけるクラウドファーストの広がりには、政府の動きも大きく影響しています。
2018年、政府は「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」を公表し、
「クラウド・バイ・デフォルト原則」を明文化しました。
これは、各府省庁が新たなシステムを導入・更新する際、原則として「クラウドファーストで検討しなければならない」という方針です。
つまり、政府主導でクラウドの活用を推進し、コスト削減・透明性の向上・迅速なサービス提供を目指す動きが制度化されたことになります。
この流れは、自治体や民間企業にも波及し、「クラウドを使わない理由を説明する責任」が問われるようになっています。
クラウドファースト導入の主なメリット
高い柔軟性とスピード感
- システムの立ち上げが数時間〜数日単位で可能
- トラフィック増加にも自動スケーリングで対応
初期コスト削減
- サーバー設備や保守にかかる費用が不要
- 小さく始めて大きく育てる「スモールスタート」が可能
セキュリティ・可用性の向上
- クラウド事業者による堅牢なインフラ・多重冗長構成
- サイバー攻撃や災害時にも復旧が迅速
最新技術を活用しやすい
- AI・機械学習・IoTなど、クラウドならすぐに試せる環境が整備済み
- 社内開発の負担を軽減し、イノベーションを加速
注意すべき点・課題も存在する
クラウドファーストは万能というわけではありません。以下のようなケースでは慎重な検討が必要です。
法規制・ガイドライン上の制約
医療・金融・防衛など一部の業界では、たとえば、機密性の高いデータをクラウドに保管することに制限が設けられていることがあります。
ベンダーロックイン
特定のクラウド事業者に依存しすぎると、コストや仕様変更に対する柔軟性が失われるリスクもあります。
社内スキル不足
クラウド活用にはオンプレとは異なる専門知識が求められ、移行後の人材育成や運用体制の整備も重要です。
このほかにも、「クラウドを使うと安くなる」という話が出ることがありますが、それもそうとは限りません。
前述のとおり、初期費用が安く、従量課金制というのがクラウドのコスト構造です。安くなるかどうかは、初期コストだけでなく、ある期間における総コストで比較する必要があります。
まとめ|クラウドファーストは新たなIT戦略の起点
クラウドファーストは、「まずクラウドを検討する」というシンプルな方針ですが、IT部門や経営戦略にとって非常に大きな意味を持ちます。
- DXの基盤となるクラウド利活用
- コスト削減と柔軟性の確保
- BCPやセキュリティへの対応
こうした目的に向かって、クラウドファーストは今後も企業・官公庁のIT戦略における重要なキーワードであり続けるでしょう。
クラウド活用における「判断の起点」として、クラウドファーストの思想をぜひ押さえておきましょう。
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