近年、「人生100年時代」という言葉が広く知られるようになりました。これは、リンダ・グラットン氏とアンドリュー・スコット氏による世界的ベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で提唱された概念です。
本書は、長寿社会における生き方・働き方の再設計を提案しており、多くの業界に影響を与えましたが、IT業界ではこの思想が現実として進行中です。
『LIFE SHIFT』とはどんな本か?
『ライフ・シフト』は2016年に出版された書籍で、少子高齢化・寿命延伸に伴い、これまでの「教育→仕事→引退」という三段階の人生モデルが通用しなくなると論じています。
代わって登場するのが、複数のステージを移行しながら生きる「マルチステージ型人生」です。
ライフ・シフトでの主なメッセージとして、以下のようなことがあります。
- 平均寿命が100年を超える時代では、70代・80代も現役で働く必要が出てくる
- 長い人生を生き抜くには、スキルの再取得(リスキリング)やキャリアの柔軟性が不可欠
- 金銭的資産と並び、「生産性資産」「変身資産」といった非財務的資産も重要
IT業界における「ライフ・シフト的発想」
IT業界は、技術の進化が極めて速く、それに伴いスキルの陳腐化も早いという特性を持っています。そのため、新しい技術に対応するための“学び直し(リスキリング)”が、あらゆるエンジニアにとって避けて通れない課題となっています。
加えて、かつて主流だった「一社に勤め上げ、60歳で定年退職する」というキャリアモデルも、すでに崩れつつあります。技術の変化とともに働き方も大きく変わり、年齢や社歴ではなく、現在のスキルと実行力が重視される世界へと移行しているのです。
こうした変化の中にあるIT業界にとって、リンダ・グラットン氏が『ライフ・シフト』で提唱した「マルチステージ型人生」や「リスキルを通じたキャリアの再構築」といった考え方は、まさに現実のものとして突きつけられています。
たとえば、近年だけでも以下のような大きな技術トレンドの転換がありました。
- オンプレミス(物理サーバー)から、クラウド(AWS、Azure、Google Cloud)への移行
- モノリシックなシステムから、マイクロサービス・アーキテクチャへの転換
- ウォーターフォール型の開発手法から、アジャイル開発・DevOps へのシフト
- 生成AIや大規模言語モデル(LLM)の実用化と業務への組み込み
こうした流れの中で、ITエンジニアたちはその都度、必要な知識やスキルをリスキルによって身につけながらキャリアを継続してきました。
今後は、こうしたスキル更新のスピードがさらに加速すると同時に、「定年で引退する」という概念自体が意味を失っていく可能性が高いでしょう。
若手だけでなく、ミドル・シニア世代のエンジニアにとっても、リスキルやキャリアチェンジは日常的な営みとなり、より柔軟で戦略的なキャリア設計が求められる時代が到来しています。
「定年退職」という概念は薄れる
従来のキャリアでは、60歳〜65歳での退職が前提でした。しかし現在、次のような動きが加速しています。
- 定年廃止や定年延長:特にIT人材不足の企業では、経験豊富な人材を手放したくないという事情があります。
- 副業・フリーランス化:会社に依存せず、複数の仕事を持つ働き方も定着しつつあります。
- スキルに応じた再雇用・契約継続:年齢よりもスキル・成果で評価する動きが強まっています。
つまり、ライフ・シフトで示されたように、「引退」のタイミングを自分で設計し、働きながら学び続ける柔軟な人生が、IT分野ではすでに現実となっているのです。
ライフ・シフトは「個人」の行動で現実になる
『ライフ・シフト』の最大のポイントは、「自分のキャリアは企業や制度が決めるものではなく、自分が設計するものである」ということです。
- 今のスキルでこの先10年働けるか?
- 学び直すとしたら、どの分野がよいか?
- フルタイムを続けるのではなく、徐々に副業や自営業に移行できないか?
仕事の内容は多様になり、ジョブ型雇用も始まっています。企業もいまや、こうしろ・ああしろと、個人のキャリアのレールを敷いてはくれません。自身で上記のような問いを持ち、自らキャリアの道筋を描く力が今後ますます必要になります。
まとめ:IT業界こそ、ライフ・シフトの最前線
リンダ・グラットン氏の『ライフ・シフト』は、単なる自己啓発本ではなく、人生100年時代の設計図とも言える内容です。特に変化の激しいIT業界においては、同書の考え方を体現するような働き方がすでに進行中です。
- リスキルは必須
- キャリアは何度でも変えられる
- 定年に縛られない「人生の再設計」が可能
これからの時代、ITエンジニアやテック人材にとって必要なのは、スキルだけでなく「自らの人生をアップデートする力」なのかもしれません。
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