2002年に稼働を開始した「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」は、日本の行政デジタル化の第一歩でした。しかし、住基ネットはその目的に対して十分な利便性を発揮するには至りませんでした。
この住基ネットの限界を受け、より実用性が高く、民間サービスとの連携や本人確認の手段として活用できる仕組みとして登場したのが、「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)」でした。
今回はマイナンバー制度、特に私たちの生活と関連の深いマイナ保険証に焦点を当てて記載したいと思います。
はじめに:住基ネットからマイナンバー制度へ──行政のデジタル化の進化
「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」は、全国の自治体を結び、住民情報を一元的に管理するための仕組みであり、行政手続きの迅速化・簡素化を目的としたものです。
しかし、住基ネットはその目的に対して十分な利便性を発揮するには至らず、住民票の写しの取得など、限定的な用途にとどまっていました。技術的制約や制度設計の課題、また個人情報保護への懸念もあり、国民の広範な利用にはつながりませんでした。
この住基ネットの限界を受け、より実用性が高く、民間サービスとの連携や本人確認の手段として活用できる仕組みとして登場したのが、「マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)」です。
2016年に本格運用が開始されたこの制度は、住基ネットと異なり、「個人番号カード(マイナンバーカード)」の発行と利用を前提とし、医療、税、年金、さらには災害対応まで、より広範囲な行政分野をカバーするインフラとなることを目指しています。
マイナ保険証とは:医療制度とデジタルの融合
この「マイナンバーカードの価値」を高める施策の一つが、2024年12月から原則化された健康保険証との一体化(通称:マイナ保険証)です。
2024年12月2日をもって、これまでの紙の健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードを保険証としても利用する「マイナ保険証」が原則化されました。
この制度により、医療機関での受付時にマイナンバーカードを提示するだけで、保険の資格確認がオンラインで即時に行えるようになっています。従来のように紙の保険証を携帯し、内容の更新に煩わされることがなくなり、医療と行政の橋渡しが格段にスムーズになっています。
マイナ保険証移行のスケジュールと現状
- 2024年12月2日:
新規の健康保険証発行は終了。 - 現在の保険証がいつまで使えるか:
- 保険証の期限記載がある場合、期限が切れるまで使用可能(例:後期高齢者医療制度の被保険者証など、最長で2025年7月31日まで)
- それ以外の既存の健康保険証は最長で2025年12月1日まで
政府は移行期間中も混乱がないよう、マイナ保険証を持っていない人への配慮策として「資格確認書」の制度を設け、段階的な移行を進めています。
マイナンバーカードを持っていない人、マイナ保険証を持っていない人で新規保険証を発行できなかった人は、健康保険組合などの保険者から、「資格確認書」というカードが交付されます。この「資格確認書」を医療機関の窓口に提示することで、今の健康保険証と同じく保険で受診することができます。
デジタル庁の集計によると、2025年4月時点でマイナンバーカードの普及率は78.3%、そのうち健康保険証として利用登録されているものは84.9%の割合だそうです。
保険証一体化によって得られるメリット
医療の効率化と安全性向上
マイナ保険証では、本人の同意があれば、過去の診療歴や薬剤情報、健診結果などが医療機関で共有されます。これにより、重複診療や処方の回避、治療の質の向上が期待できます。
手続きの簡素化
転職、結婚、引っ越しなどライフイベントのたびに、保険証の切り替えや再発行が発生していた手間が、マイナ保険証では不要になります。また、高額療養費制度の申請も不要となる場面が増えています。
医療機関・行政の負担軽減
受付事務や確認作業、誤入力の防止など、医療事務の大幅な効率化が見込まれます。自治体にとっても、資格確認や医療費助成の処理が迅速かつ正確に行えるようになります。
直面する課題と対応策
医療機関の整備状況
全国すべての医療機関がすでにマイナ保険証に対応しているわけではなく、特に小規模な診療所などではカードリーダーの導入が課題となっています。これに対して、政府は補助金やシステム整備支援を行っています。
公費負担医療の一体化
今後、子ども医療費助成や難病医療費助成といった「公費負担」分もマイナンバーカードで一元的に管理できるように進められていますが、制度の改正や自治体の対応など、クリアすべき課題は多く残されています。
高齢者・障害者への対応
デジタル機器に不慣れな高齢者や、マイナンバーカードを取得していない人たちへのフォローも大きな課題です。資格確認書の配布、医療機関の柔軟な対応が求められています。
今後の展望
マイナンバーカードと健康保険証の一体化は、単なるカードの置き換えではなく、日本の医療・行政インフラを再構築するプロジェクトとも言えます。将来的には、医療機関での受付だけでなく、服薬指導や予防医療、さらには介護・福祉分野でも、マイナンバーカードを軸とした連携が想定されています。
また、災害時や緊急搬送時にも、医療情報の即時共有ができる仕組みが整えば、命を守るツールとしての活用も可能になります。こうした発展のためには、技術だけでなく、法制度の整備と国民の理解・参加が不可欠です。
もちろん、個人情報保護の観点からの慎重な運用も求められます。政府や自治体には、セキュリティ面での徹底した対策と、透明性のある運用が引き続き求められるでしょう。
まとめ
今回のマイナ保険証導入は、「国民一人ひとりにひもづいたデジタルインフラをどう活用するか」という問いに対する重要なステップです。医療現場の効率化、行政事務の簡素化、そして国民の利便性向上が、すべてリンクしている点が大きな特徴です。
まだ過渡期ではありますが、この制度が国民生活の質を底上げするインフラへと成熟するためには、マイナンバーカードの普及だけでなく、正しい理解と安心して利用できる環境整備が不可欠です。
また、医療や行政サービスがこれまで以上に「つながる」社会を実現するには、制度の柔軟性、技術基盤の強化、そして国民一人ひとりの関心と参加が求められます。マイナ保険証は、その「入口」に過ぎません。今後は教育、福祉、災害対策といった多分野への活用が進み、真に国民の生活を支える統合的な社会インフラとして機能していくことが期待されています。
デジタル化によって変わるのは「手続き」だけではありません。私たちの生活の安心・安全、そして効率性を高めるための仕組みが整いつつある今、前向きに関わっていくことが求められています。
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